夢を旅する少女

作者の実際に見た夢を少女が追体験するだけ。

真っ赤で綺麗なおつきさま

 

ぼすん、と重たい頭を枕に乗せて、橙色の薄明かりを発しているヒーターがぼんやりと照らしている天井を見上げる。

幼少期に叔母が貼った夜になると黄緑色の光を放つ星のシールは、もう光る力を失っていた。

 

今日も疲れた…

 

楽しかったこと、嬉しかったことを終えたにも関わらず明日がくるのが恐ろしいのは、私が毎日、夏休みの最終日に取り残されているかのような焦りを抱えているからだろう。

 

明日はきっともっと良い日になる。

 

そう強く信じて、私は目を閉じた。

 

 

───気付けばそこはわたしの母校、3階の教室だった。家から徒歩で5分程度の中学校、正面には道路を挟んでテニスコートがあり、隣にはプールがあった。どうして自分がそこにいるのかなんて考えも持たず、ただぼーっとテニスコートに落ちていたボールが風もないのに勝手に転がっている様子を見つめていると、一人の青年の声が背後から聞こえてきた。

 

振り返ってみればそこは教室の廊下ではなく、家の近くにあるファッションセンターの中。教室の窓側を半分に切ってそのまま店内に置かれているような状況、普通であればおかしいと感じるだろうが、わたしは気にも留めていなかった。

青年は床に敷かれたたくさんの布団の上に横になり、同じクラスの男子とゲームをして遊んでいる。

 

さっきまで布団なんて敷いてなかったような…

 

そんな思いを抱きながら、わたしはその教室のような店のような場所から自動ドアを抜けて外に出た。さっきまで3階からテニスコートを見ていたのに、振り返った瞬間に一階建ての店にいることがさも当然のように…。

暖かな陽射しに冷たい風、街路樹は綺麗な緑を残し一部が赤色へと変わっている様子から今が秋であることを再確認しながら、なんの変哲もない中途半端な田舎を歩いていく。

 

すると突然、目の前に黒い人の形をした何かが現れた。

一切の艶もなく、奥行きを感じさせない、なんだか画用紙に黒いクレヨンだけで描かれた棒人間のようなソレを見て、ソレが何かを知らないにも関わらず恐怖を抱いたのを覚えている。

踵を返して走り出し、急いでソレから逃げて店のような教室へ戻れば、ファッションセンターというにはあまりにも雑貨や生活用品が置かれた店内の棚に身を隠すようにして奥へ逃げる。

 

どうしてソレから逃げたのか分からない、なんせ自分以外の通行人は黒いソレを気にも留めずに平然と歩いていたから。

 

荒くなった息を整えながら辺りを見渡せば、そこは家電の置かれている棚だった。ファッションセンターのような教室は、どうやら知らないうちになんでも揃っている大きな店へと変わっていたらしい、時間も気付けば夜になっていて店に来ていた人がぞろぞろと帰宅していく様子が視界の端に止まった。

 

あれ、なんだったんだろう…というかわたしも帰らなきゃ!

 

子供連れの家族やカップル、年配の老夫婦が帰宅していく様子に感化され、自分も帰らなくてはという強い使命感を抱いては自分も逃げてきた自動ドアからではなく裏口のような扉を抜けて外に出た。

そこは田舎特有のとにかく広い駐車場で、低木に囲まれた先には住宅街が見える。

そこはわたしの知らない土地だった…知らない土地なのに、どうしてかその住宅街の方へ帰らなければならないと感じた。

 

片付けを怠った誰かが放置したカートが広い駐車場を右から左へ滑っていく様子がやけに恐ろしく、車一台無い駐車場をそそくさと早足で抜けて住宅街の入口へと足を踏み入れた。

煉瓦模様の外壁の家が多く見受けられる家の間、車一台通れるような道で水路に入らないよう取り付けられたガードレールに手を乗せると、まるでさも一緒に行動していたかのような同級生の女の子が空を見上げて指を指す。

 

…やばっ!

 

対して仲の良かった記憶もない同級生と口を揃えてそう呟いた瞬間…

 

私は目を覚ました。

やけに心臓の鼓動が早く、背中にはびっしょりと冷や汗をかいていた…どうしてこんなに焦っているのか分からないが、私は最後の一瞬見た、"真っ赤な大きな月"を見た瞬間の恐怖を…数年間、忘れられずにいる。

 

どうしてあの"ただの真っ赤な月"に恐怖して、対して仲の良い記憶のない同級生が月から視線を下ろした時にはもういなくなっていたことに焦り、どうしてあのタイミングで目を覚ましたのか。

 

いくら考えても答えは見つからないが、その日は眠れない夜を過ごしたにも関わらず、まt見たいと好奇心に身を任せて眠る日を過ごしています。

 

 

そういえば、最初からあたかも一緒に行動していたかのような同級生の子の家には望遠鏡があったと聞いたような…まぁ、関係ないでしょう。

 

 

真っ赤で綺麗なお憑き様、血濡れた満月、黒い人。